わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「うーん、指輪はプレゼントしますけど……」

「絶対、おんなじデザインの。私、捨てちゃったって聞いて、ほんとに悲しかったんだから」

これだけは、今でもモヤモヤするんだから。

「悪かったですけど、別に捨ててはいないんですけどね」

「え?うそ。だって…」

「家にはないって言いませんでした?あの指輪、さすがに捨てきれなくて、でもあの時は見たくもなかったので、銀行の金庫に放り込んでおいたんですよ」

「え、じゃあ、まだあるの?」

「あります」

あるんじゃない!早く言って!

「え、じゃあそれ!それがいい!」

口にしてから一花ははっとして急に恥ずかしくなった。自分から指輪くれってしつこく言うのって、はしたない。でも、欲しいんだもん……。

「うん、でも、捨てるつもりでいたので、別のでいいですか?一緒に見に……」

今度言葉を遮ったのは一花だった。

「え?なんで?なんで捨てちゃうの?」

「もういらないですし、見たくないし」

「いるよ!それに買った時のこととか思い出したんでしょ?」

「思い出したよ。でも、見たくないと思ったのも覚えているんだよ」

「そんな……。でも、それがいいのに」

榛瑠が初めてペアで用意してくれたもので、それも指輪で……。

榛瑠が髪を優しく撫でながら、あやすように言った。

< 169 / 172 >

この作品をシェア

pagetop