わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「なんでもいいから」

「えーっと、じゃあ、……一花」

どきっとした。でも、そういうのじゃないもん。

「それはダメ」

「ダメなの?なんで?」

「もう、あげちゃってるから」

榛瑠は声を出して笑った。

「それは困ったな」

「困るの?」

「困るよ。だって……」

榛瑠は私を真っ直ぐに見ると目を細めた。

「一花より欲しいものなんて、なにもないから」

落ち着いた声で言われたその言葉に、一花の心臓はとくん、と跳ねた。そして、不意に静寂が訪れる。

窓から入った明るい光で榛瑠の髪が金色に光っている。その笑顔はけぶるようで、どこか儚くさえ見えた。

そこにあったのは、時間が止まったような、そんな幸せな……。





〈 了 〉


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