わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「それに、帰りません。だいぶ落ち着きました。就業までやってから帰宅します」

「はあ〜?」

鬼塚は眉をよせる。強面な顔がますます怖くなる。

「なに意地はってるんだよ。引き継ぎあるならそれだけしてさっさと帰れ。やることあるだろう」

「? 何を?」

「何って、聞いてなかったのか? 嶋さんがイスタンブールまですぐ手配すると言っただろうが。パッキングまで人任せなのか、お前?」

「え?イスタンブール?」

本当に一花は聞いてなかったようだった。

「そう、そこの病院に四条が入院しているんだ。まだ、戻ってくるまで日にちがかかるみたいだし行くだろ?」

一花は目を見開いてじっと鬼塚を見た。それから、きっぱりと言った。

「行かない」

「え?」

「あ、鬼塚さんは仕事戻ってください。すみませんでした。ありがとうございました」

そう言って一花は鬼塚に深々と一礼すると歩き出した。

「おいっ」

「本当に大丈夫!心配かけてごめんなさい!」

そう言って一花は足早に去って行った。
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