わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「ま、なんでもいいけど。それなら話つけといてよ。あたし、行くから」

「そのかわり、ちゃんと無事に彼を連れ帰って」

「無事は保証するわ。そうじゃないと困るもん。でも、あんたの元に返すかはわかんないけど。弱ってるわけだしさあ、彼女は来ないわけだしさあ。あ、いっそ、そのままアメリカに一緒に戻っちゃおうかなあ」

「……日本に連れ帰って」

美園は鼻で笑った。そしてそのまま一花に背を向ける。

「美園さん!」

美園は無視して返事をしなかった。が、ふいに立ち止まって振り返った。

「一応、言っとくけどさ。あたし、あんたのそのねじ曲がった潔癖さは嫌いじゃない」

「え……」

「でもさ、男にとってはどうだかね。あたしはあんたと違ってワガママ好きだし。ハルもね。ま、後で後悔しなよ、じゃね」

そう言って美園は廊下の角に姿を消した。

「……わかったようなこと言わないでよ」

一花はボソッと呟いた。喉が詰まって声が震える。

だって、仕方ないじゃない。お父様がもどるのに、わたしがいないとなるときっと悲しむ。事情がわかってたとしても。わたしは出迎えなくっちゃ。

他人にはわからないかもしれないが、それは一花の中で譲れないところだった。

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