わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
鬼塚はそんな一花を見て思う。あのずば抜けた脳みそをもった男も、こいつにかかるとただの困った男だな。

そうして今、病院にいる榛瑠を思って、鬼塚はため息をついた。

「鬼塚さん?」

「いや、なんでもない。……もう着くぞ」

舘野内家の車寄せでは嶋さんともう一人の女性が出迎えた。一花と同じくらいの年の長い黒髪の美しい人だ。

一花は車から降りると嶋さんに何か言いながら屋敷に入っていく。その後を入っていこうとする女性の腕を鬼塚は掴んだ。

「……あ」

一花がわずかに振り返って彼女に目配せする。二人が屋敷に入り、後に二人が残された。

鬼塚は玄関脇の薄暗がりに彼女を連れていく。木が植わっていて、二人の姿を屋敷から隠した。

「なんで、何にも言わずに戻ろうとするんだ?」

「だって、仕事中ですし……」

少し下を向きながら彼女が言う。そんな彼女を月明かりが照らしている。暗がりに白い肌が美しい。

「それにしたって無視はないだろう。大体、いちいち一花が怒るかよ。あいつが良いなら良いんだから。この家は」

そう言って、鬼塚は強引に引き寄せた。

「あっ……、やっ」

鬼塚はその声を無視しキスをした。そして唇を離すとそのまま抱き締めた。

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