わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「あの、離して、馨さん……」

「……」

「あの、お嬢様がこんな時ですし、私……」

「あーあ」

鬼塚はため息をついて彼女を離した。

「ごめんなさい。でも、あの、私、榛瑠さまが帰られるまで会うのもしばらく控えようかと思っていて……」

「まったく、なんでそんなにクソ真面目なんだか。本当に、一花といい、月子といい。やりすぎだ」

「ご、ごめんなさい」

「いいよ。どうせそんなことだろうと、今日、無理矢理きたんだし」

「……はい、ありがとうございます」

月子は恥ずかしそうに下を向いた。

鬼塚はそんな彼女の頭に手を置くと、サラサラの髪を優しく撫でた。

「まあ、あれだ。一花のこと頼むな。この先、俺が出来ることなんてないだろうしな」

「はい。私も何が出来るかわかりませんけど、お側にいようと思います」

そう言って見上げる月子を見て、鬼塚はまたため息をついた。

「そもそも考えてみれば、なんで俺が一花の心配をしなくちゃならないんだ。それもこれも四条のヤツが、いない間よろしくとか気軽に言いやがるから……」

月子は微笑んだ。

「馨さんも真面目ですね」

鬼塚は月子を見下ろすと、少しだけ乱暴に頭を撫でた。

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