わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
迷子

ざわつきが遠くから聞こえてくるも、病室内は静かだった。

存在そのものがざわついてるというような、騒がしい美園は今日は来ていない。

榛瑠は個室の白いベットの上で、窓から入ってくる白っぽい光を浴びながらその静けさを楽しんでいた。

と、わずかに部屋の入り口の戸が動いた。女性の声が漏れてくる。

「一人で大丈夫よ、高橋さん。少し待っててね」

引き戸が開いた。女性が入ってくる。聞いていた時間通りだ。

背格好は女性の平均といったところだろうか。セミロングの柔らかそうな髪をしている。特別な美人ではないが、丸っこい黒目がちな目をしていて十分にかわいらしい。

その瞳にわずかな戸惑いを浮かべつつ、それでも微笑みながら、彼女は言った。

「こんにちは」

「こんにちは」

榛瑠も笑みを浮かべて答える。

「あの、大丈夫?体……」

「大丈夫ですよ。お見舞いありがとうございます。……お嬢様」

彼女はクスッと笑った。

「高橋さんや嶋さんの真似しなくてもいいのに」

「そうですね」

そう言って笑顔を返すと、彼女の緊張がほぐれるのが見てとれた。

そのままベット脇で立つと、榛瑠の顔を覗き込みながら言う。

「ほんとうに大丈夫?どこか痛いとか、気分が優れないとかない?顔色は悪くないけど」

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