わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「……月ちゃんには気にしないでって言ってるんですよ」

「そんなことはわかってる。お前のせいじゃない。あいつの生真面目さときたら……」

そこまで言って鬼塚は言葉を切った。視線の先に前方を歩く見知った後ろ姿があった。

榛瑠と美園さんだった。美園さんが楽しそうに榛瑠の腕に自分の腕を絡ませて歩いている。

「……早川女史経由で聞いた話だけど、それでも事故当初は結構ひどい精神状態だったらしい。美園が来て落ち着いたって。まあ、それで直ぐにどうのこうのなるほど人間単純じゃないけどな」

「……うん」

鬼塚は一花の頭にポンっと手をやる。

「ま、あんまり怖がるなよ、ってこと。じゃあな」

そう言って鬼塚は立ち去った。その後ろ姿を見ながら一花は思う。

怯えてるのかな、わたし?何に?


そんなことを考えながら会社の入っているビルのエレベーターホールまできて、しまった、と一花は思った。

目の前に榛瑠がエレベーター待ちしてるし!

近くに美園はいなかった。それでも落ち着かなくて立ち去ろうとした時、榛瑠と目があった。会釈される。

ああ、だめだ。見つかっちゃった。もう、逃げられない。

しょうがないのでおずおずと近寄って挨拶する。

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