わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花は自分のデスクまで戻ってくると、大きくため息をついて突っ伏した。

「どうしたんですか、一花さん。いつになくため息大きいですよ」

隣の席の篠山さんが明るい声で話しかけてきた。

「うん、なんか疲れて」

「頑張りましょ。まだ週の半ばですよ」

「そうだよねえ」

と、しっかり者の後輩に返事すると、一花は姿勢を起こした。

だからね、鬼塚さん、遠慮も何もそれ以前に!何をどう話していいかわからないんですよう。

そんなことを心の中で呟きながら、いつもの書類に目を通す。

いったい、どんな顔でどんな言葉で榛瑠と話していたのかわからない。

何をどう、喋ってた?まるでわたしの方が記憶喪失だ。

目の前のルーティンの仕事をしながら思う。

日常って素敵だ。いつもと同じってすごいことだ。

今の榛瑠は、知らない顔をしている。彼は今のわたしには非日常の中の人だ。

……でも、違うのかも。

わたしの方がもしかしたら非日常に紛れこんでしまったのかもしれない。

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