わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「わたしも小さかったし、よくわからないの。お父様か嶋さんに聞けば分かると思うけど」

「僕自身は、事情を理解していたのでしょうか」

「たぶん……」

「両親や親族のことが全くわからなくて。記憶としてもですが、記録も無くて。なにかご存知ですか」

その問いにも一花は答えることができない。

「ごめんなさい。わたしは知らないの。あなたもほとんどその件は話さなくて。お父様なら何かご存知かと思うけど」

「社長とは日本に戻ってから一度お会いして話したんですが、それ以来機会がなくて……。どうも会っても仕方ない、と思われているみたいですね」

「ああ、そうなんだ。ごめんなさい」

お父様ってば何考えてるのかしら。昔から榛瑠には冷たいところがあるのよね。

「いえ、あなたに謝ってもらうことはないです。実際、会っても仕方ないですし」

そう言って榛瑠は紅茶を飲む。長い指が美しくカップの形に沿っている。こうして見ていると何も変わってないようなのに。

「そういえば、家からお菓子のレシピがいろいろ出てきまして」

「あ、そうなんだ。あなたの趣味と言っていいのかな」

正確には作ってわたしに食べさせるのが趣味だったんだけど。恥ずかしくて、さすがに言えない。

「そうなんでしょうね。でも、あまり甘いものが好きだとも思わないけど」

一花は笑ってごまかした。

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