わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「そんなわけで俺は明後日から飛ぶから、よろしくな」

一花は鬼塚を見た。

「え?飛ぶって現地ですか?」

「ほかにどこ行くよ。文句の一つも言わないと気が済まないだろう」

「まあまあ。本当はもうちょっと建設的な話だよ」

佐藤が穏やかな笑顔とともに言う。

佐藤さんが中に入るとそれだけで空気が和らぐなあ、と一花は思った。でも。

「なんだよ」

見上げる一花に鬼塚が聞く。

「いえ……。気をつけて行ってきてくださいね」

「もちろんそうする。なに心配顔してるんだ?そんなに立て続けにトラブルが起こってたらたまらんだろう」

「それはそうなんですが」

「第一、俺の心配する役目はお前じゃないっての」

「そうだけど。いいじゃないですか、心配ぐらい」

「まあまあ」

佐藤の相槌に取り合わず鬼塚が続けた。

「一花が心配するべきなのは俺じゃないしな」

「わかりました。せいぜいお土産の心配でもしてますっ」

本当に、鬼塚さんってば。……斜めに優しいんだもん。

「大丈夫だよ、勅使川原さん、何度も行ってる場所だし。お土産は期待できない田舎だけどね」

佐藤さんの柔らかな笑顔に押されて一花も笑顔を作ると、席へ戻った。

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