わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜

気がつくと二人の噂はあっという間に広がっており、すでに既成事実のようだった。

一花はモヤモヤとしながらも本当の事を確かめることができずにいた。

家に来たあの日以来、榛瑠とは会社の廊下ですれ違って挨拶することが数回あっただけだ。彼の方から何か言ってくることもなかった。

「自分から連絡とって聞いてみればいいのに。彼だって、あなたが彼女として付き合ってた人だってことは知ってるんだから、答える義務はあるわよ？」

週末、白い内装に明るい日が差す店内で、吹子（ふきこ）がランチのキャロットスープを口にしながら一花に言った。

「そうなんですけど。そうなんでしょうけど」

一花もスープを口にしながら煮え切らない返事をする。そんな一花を見ずに吹子が言った。

「このスープ、美味しいわね。小さなお店なのに本格的。ステキ」

「ですよね。ノコさんのキャロットスープ、昔うちで働いていてくれてた時から大好きで。榛瑠も好きだったんですよ、そういえば」

「お待たせしました。ランチのハンバーグとクリームコロッケです」

ちょうどそこへノコが新しい皿を運んできた。彼女は一花の家の厨房で働いた後、別の飲食店で働き、結婚を機に旦那さんとふたりでこの店を持ったのだった。