わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「ありがとう。このスープすごくおいしい」

吹子が笑顔を向ける。

「ありがとうございます。ごめんね、今日バイトの子が休みでバタバタしちゃって」

「こっちこそ、ごめんね、ノコさん。ランチタイムの終わりに滑り込んじゃって」

そう、一花が言うと笑顔がかえってきた。

「とんでもない、うれしいわ。ゆっくりしていってね」ノコが一花に笑顔を向ける。「あ、例の小悪魔の悪口なら後で一緒に言わせて」

「それが小悪魔どころじゃ済まなくなっているらしくて」

吹子の言葉にノコが真顔で言った。

「もともとロクでもないのよ。この機会に別れちゃえばいいのよ。一花ちゃんも」

ノコはいつのまにか一花のことをちゃん付けで呼ぶようになった。そしてその頃には、すっかり一花の信頼できる友人になってくれていた。

彼女が厨房に戻る後ろ姿を目で追いながら、不思議だなあ、と一花は思う。最初はどちらかというと相性が悪いかと思ったのに。

でも、最初から、この味は大好きだった。榛瑠もだ。昔ノコさんにもらったレシピを彼はまだ持っているだろうか。

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