わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「ごめんなさい。でも、吹子様はやっぱり吹子様なんだもの」

そういうと、吹子は笑って言った。

「そういう譲らないとこ、ほんと、一花ちゃんらしいと思うわ。なのになんで榛瑠には譲ってばっかりいるのかしらね」

一花は笑った。ほんと、なんででしょう?

「わかる気もするけど。好きな人ほど遠慮しちゃったり距離を作っちゃったりね」

「吹子様でも?」

「それはそうよ。というか、私こそそうよ」

吹子は笑顔で言うと、最後のハンバーグの一片を大きな口で気持ちよく食べた。

「ああ、美味しかった」

「デザートもいただきます?ノコさんの甘いものも美味しいですよ」

一花は自分も一皿食べ終えて言った。よかった、今日はちゃんと食べれたし、まだ食べられそう、と思いながら。最近、あんまり食べられなかったから……。

「そうね、ぜひ。でもその前に、一本、電話しましょう」

「電話?あ、仕事ですか?忙しかったらもう行ってくださいね。それでなくても、せっかくの週末に時間もらっちゃって……」

「せっかくの週末に仕事なんかしないわ。榛瑠に電話するのよ」

「……え?榛瑠?え?なんで?」

一花はすずしい顔をした吹子に思わず乗り出して尋ねた。

「あら、だってせっかく時間があるんですもの。旧交を温めるのもよくない?入院中はゆっくり話せなかったしね」

そう言うと、さっさと吹子は電話をし始めた。一花はそんな彼女を呆然と見つめるしかなかった。

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