わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
吹子は一度目を瞑ってからゆっくりと話しだした。

「あなたともっとも付き合いがあったのは高校時代だけど、その頃のあなたは本当に綺麗でね」

「それはどうも」

「ついでにいろいろ最低だったわ。一見わからないところでいろいろね。それはもう、女の視点から見ても」

榛瑠は笑顔を崩さない。

「それでも、嫌いになったことはなかった。あなたは仲間で、最高のリーダーだった。間違えなかったし、裏切らなかった」

そうよ。

吹子は榛瑠を見る。あの少年はどこにいる?

「あなたはね、私たちの、いいえ、私の信頼する会長で、誠実な友人だったわ。外部の人間にどれだけ冷酷でもそれを私たちに向けはしなかった。私たちを守り抜いたし、見返りを求めなかった。だから、私たちもなんでもできた。あなたは最高の友人だったのよ」

今度は榛瑠が静かに目を閉じた。そして吹子を見る。何を考えているか吹子には読めない。

「でも、それを返上するわ。悪いけど今のあなたを好きにはなれない。……事情はわかってる。しようがないのも頭では理解できる。でもね」吹子は祈るような思いで、強い眼差しを榛瑠に向ける。「何が大事かわからないような馬鹿はお呼びじゃないのよ」

榛瑠は微笑んだままだった。

「いいんじゃないですか。会社を背負うような立場にある人が、こんなところで時間を浪費するより、よほどね」

「合理的でつまらないわね」

「そうでもないです、結構感情で動いてますよ。本来なら こんな呼び出しには来ない方がいいのはわかっているんですから」

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