わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「来た時は、うーんと、ご飯たべたり、おやつ食べたり、仕事してるのみてたり、えっと、後は……。なんか、なんとなくいたかな」

「そう」

聞いた割には榛瑠は興味なさそうな返事だった。以前だってそんな部分はあったけれど、今は考えていることがさっぱりわからない。

「でも、意外にいらっしゃってますよね。今の私から見ると、ちょっと驚くぐらいに、時間を割いている」

「いや、まあ、一応付き合っていたので……」そう言って、一花はふと気付いた。「なんで何回も来てたことわかるの?これも推理?」

「日々の行動を書いていたものが残っているんです」

「え?本当に?日記書く人だったの?」

「日記というより記録です。仕事なんかの。そこにあなたのことがちらほら出てくるんですよ」

そうなんだ、と一花は思った。そんなマメな事してたんだなあ。今更榛瑠に関して、知らないことを知るのもおかしな感じだった。

「今でもつけていますよ」

「え?そうなの?」

「はい。今はかなり意識的に細かくしてます」

「そうなんだあ、意外。あなたは全部頭の中に覚えちゃう人だと思ってた」

「逆です。書いてしまえば覚えておかなくていいので楽なんです。といっても、記録が残っているのはここ一年くらいなんですけどね」

「……私でわかることならなんでも言うよ」

「ありがとうございます。でも、人から聞くと、その人の記憶か自分の記憶かわからなくなりそうで。もっとも、美園さんなんか容赦なく話して聞かせてくれますけどね」

あ、そこで、その名前。

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