わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「でも、聞いていいですか?」

榛瑠が柔和な顔で聞いてきた。

「はい」

「言いたくなかったらいいですけど、どうやって付き合い始めたのか聞きたいのですが」

一花はうわっと思った。答えづらい。

「えーと、いろいろごちゃごちゃあったんですけど。つまり、えーと、つまるところ、あなたが私のことを好きになってくれたからだと思う」

榛瑠は意外にも楽しそうな笑顔になった。

「そこなんですか?あなたは違ったんです?」

「違わないです!」一花は慌てて言った。「違わないけど、つきあえた理由はそこかなって」

「じゃあ、私が言わなかったら付き合わなかった?」

「うん」

一花は即答した。そこは即答できる。

「私が手が届く人だって思ったことなかったもの」

「お嬢様はあなたのほうなのに」

榛瑠はあいかわらず笑顔のままだ。

「関係ないもん。それに、あなた日本にずっといなかったし。帰ってこようと思ってくれなくちゃ、会えもしなかったし」

「……そうなんだね。美園さんがなんで日本に戻ったのかわからないって盛んに言ってましたけど」

うん、とだけ一花は答えた。理由の本当のところはきっと、榛瑠にしかわからないのだ。でも、それは失われてしまった。今はそれより……。

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