わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花はのりだすと榛瑠に手を伸ばす。彼の金色の髪に触れる。そして、抱きしめた。

自分の記憶を信じられないということは、未来を信じられないということだ。

過去を無くして、未来も手にできないまま、この人は生きていくつもりだろうか。

私は全然わかっていなかった。そんな恐ろしい場所で息をしているの?

「大丈夫よ。もしあなたがまた忘れてしまっても、私が覚えているから。あなたはまた必要ないっていうかもしれないけど、でも、覚えているから。もし、そうなっても、そうなったら今度こそ、はじめっから側にいる」

一花は腕を緩めて榛瑠の顔を見る。彼が金色の目で見返す。

そう、今度こそ絶対に、はじめから側にいるわ。

一花は榛瑠に顔を近づけると、その唇にキスをした。

あいしてる。大好きよ。

榛瑠はされるままになっていた。が、その手を一花の頭に持ってくると彼女の髪に優しく触れた。

一花はその感触に我に返った。

「ご、ごめんなさい!ついっ」

一花はあわてて離れると立ち上がった。榛瑠は微笑んでいた。

「謝らなくていいのに」

「いや、えっと、その」

冷静な相手にキスするのってかなり恥ずかしいんだと一花は知った。顔が赤くなっているのがわかる。

そんな一花の頬に榛瑠の手が伸びて触れる。

え?

優しく触れられて、一花の鼓動が早くなる。私の心臓てば、これくらいで何よ。

「クマができてる。眠れてないんですか?」

「え、いえ、あのっ」

本当はいろいろ考えちゃって寝つきが悪い日が多い。でも、言ったら心配させてしまう。

「すみません、私のせいですね。でも、ちゃんと寝てくださいね?寝不足は良くないです」

一花は赤い顔のまま頷いた。

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