わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「ムシ⁈」

「食えるやつらしいぞ」

鬼塚が何気なく言う。

「え、まさか、つき……彼女にもあげたんじゃないでしょうね」

一花は顔をしかめながら言った。昨日は月子は休みをとっていたから会っているはずだ。

「そんなことしたら嫌われちゃう!」

篠山が顔をしかめたまま言う。

「面白がってたぞ」

「え〜うそ〜」

篠山さんでなくても普通は嫌がるよ、さすが、月ちゃん……。

その時、フロアの入り口で篠山さんを呼ぶ声がした。彼女と仲のいい同期の女の子だ。

「ねえ、聞いてよ〜」

篠山はキャンディーをもったまま彼女のところへ行って、立ち話を始めた。

二人になったところで鬼塚が一花に向き直った。

「お前、会社休まずに来てるらしいな」

そう言って、頭をくしゃくしゃする。やめてください、と言いながら一花は思う。

鬼塚さん、月ちゃんから聞いたんだな。榛瑠と私が別れたこと。

本当はあの日、家に戻った後、何もする気になれなくて、ひどい顔で、いっそ月曜日は休もうと思っていた。

でも、ふと思ったのだ。じゃあ、火曜日になったら元気になるの?いつまで休むの?

そう思ったらバカらしくなって、そこから慌てて顔を冷やして、そうやって毎日すごして、今日はもう、木曜日だ。

時間はきちんと変わらず過ぎていく。

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