わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
一花は酔い過ぎないように、目の前の料理も勝手に食べる。まずくはない。でも、べつに、だなあ。

そういえば、昔も篠山さんに合コンに誘われて、結構酷い目にあったことがあったなあ。彼女に悪気はないし、そもそも彼女のせいでもないけれど。

相手が悪かっただけで。薬飲まされたり辛かったけど、あの時は榛瑠が助けてくれた。

一花は胸に何かこみ上げそうで、気持ちを変える。

まあ、助けてくれたって言っても、あとでそれはそれでからかわれて元とってくれたけど!冷静に考えれば結構ひどくないでしょうか?

そこまで考えて、一花は立ち上がった。

「一花さん?」

篠山が気づいて声をかける。

「あ、ちょっとお手洗い。ごめんね」

そう言って離れると、狭い通路を抜ける。

ダメだ。いらない事思い出した。ダメ。こんなところで悲しくなっててどうするのよ。

一花は気分を落ち着けると、しばらくしてから席に戻った。

適当なところで帰りたいなあ。そんな事を思っていた時、

「一花さん、帰っちゃったかと思いましたよ。こんばんは」

後ろから耳元近くに声をかけられて、一花はびくっとしてふりかえった。

そこに大学生っぽい男の子がいた。なに??

「すみません、遅れちゃって今さっき来たんです。あ、横の席、僕なんで入れてください」

そう言って空いていた一花の隣に座った。
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