わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「一花さん、大丈夫ですか?」

須賀が一花の横を歩きながら困ったような顔をしている。

「全然、大丈夫だよお」

「ああ、もう、背中叩かないで。めっちゃ酒弱いですね」

「なによ、篠山さんといい心配しすぎよ」

店を出て解散する時、篠山も「一花先輩ほんとに平気?」ってずっと心配していたのだ。大丈夫なのに。

「だって、まっすぐ歩けてませんよ?まあ、いいですけど。ほら」

見ると一花に向かって右手が差し出されている。一花は何も考えずにその手をとる。

須賀は笑った。一花もつられて笑う。

冬の始まりの夜はすっかり寒くなっていたが、週末の繁華街には人が溢れている。その人混みと街の明かりの中を一花は手をつなぎながらいい気分で歩いていた。

いい気分?なんか、おかしいな。でも、いいや。楽しい、で。

「あれ?」

須賀が歩きながら小さく呟いた。彼の見ている方に一花も視線を向ける。

そこに背の高いスーツを着た男と、彼と腕を組む女性が歩いてくるのが見えた。

榛瑠と美園さんだ。一花は自然と足が止まる。

やがて二人が近くまで来た。

「こんばんは」

「……こんばんは」

榛瑠に一花は苦い思いで、それでも一応言葉をかえす。

美園は無言で一花たちを見ている。自分の腕を榛瑠の腕に巻きつけたまま離さない。でも、それが不自然になぜか見えなかった。

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