わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「そういうけど。ねえ、一花さん。ガキの経験値あげる手伝いしてくれませんか?」

なんのこと?

一花は口には出さず、横を歩く須賀を見た。

「女の人を慰めるっていう経験ですよ。チャンスください。やったことないんで。ほら、僕、ガキだし」

「何言ってるの」

一花は笑ってしまった。相変わらず須賀は明るい笑顔を向けてくる。そして、一花の手をとった。

「手、冷えちゃってますよ。体冷えると女の人は良くないんですよね?寒いとね、気をつけないと心もやられちゃいますよ」

落ち着いた暖かい声だった。須賀の手はあたたかかった。

もうダメだ、一花は思った。

思った途端に大粒の涙が溢れでた。

嗚咽が漏れる。止まらなかった。こんなに涙が出たのは、榛瑠に別れを言われたあの日から始めてだった。

須賀がそっと一花を抱き寄せた。

通りすがりの何人かが二人を見ていく。須賀はその視線から一花を隠すように抱きしめ続けた。

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