わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
笑うんだな、この人はここで、と榛瑠は思う。泣いてもおかしくないのに。
じゃあ、それだけだから、と、一花はもうすることないとばかりに帰りにかかる。
「車で送りますよ、寒いですし」
「ううん、電車で帰るよ。途中から迎えに来てもらうよう頼んであるし」
自分を振った男と二人きりは嫌だろうしな、とは思うが、夜道を一人で行かせるわけにはいかない。
「では駅まで送ります。断るのは無しでお願いします」
一花はふふっと笑って、お願いしますと言った。
駅までのそう遠くない道のりを二人並んで歩く。
一花は斜め前方に視線を落としながら黙って歩いている。少し微笑んでいるような、彼女のいつもの表情だった。
「お屋敷の方はどんなご様子ですか?」
榛瑠が聞いてみる。
「変わらないよ。普通」
そうですか、と言いながら榛瑠は考える。あの屋敷内での自分の立場はどんなものだったのだろう。
「嶋さんから連絡をいただいたのですが、昔の私の私物が残っているそうなんです。そのうち取りに伺うと思います」
「そうなんだ。知らなかった。いつでもどうぞ」
一花はあまり興味なさそうに答えた。思ったよりも後に引きづらないタイプなのかもしれない。
それなら、そのほうがいいと思った。そこに寂しさなどは感じない。
じゃあ、それだけだから、と、一花はもうすることないとばかりに帰りにかかる。
「車で送りますよ、寒いですし」
「ううん、電車で帰るよ。途中から迎えに来てもらうよう頼んであるし」
自分を振った男と二人きりは嫌だろうしな、とは思うが、夜道を一人で行かせるわけにはいかない。
「では駅まで送ります。断るのは無しでお願いします」
一花はふふっと笑って、お願いしますと言った。
駅までのそう遠くない道のりを二人並んで歩く。
一花は斜め前方に視線を落としながら黙って歩いている。少し微笑んでいるような、彼女のいつもの表情だった。
「お屋敷の方はどんなご様子ですか?」
榛瑠が聞いてみる。
「変わらないよ。普通」
そうですか、と言いながら榛瑠は考える。あの屋敷内での自分の立場はどんなものだったのだろう。
「嶋さんから連絡をいただいたのですが、昔の私の私物が残っているそうなんです。そのうち取りに伺うと思います」
「そうなんだ。知らなかった。いつでもどうぞ」
一花はあまり興味なさそうに答えた。思ったよりも後に引きづらないタイプなのかもしれない。
それなら、そのほうがいいと思った。そこに寂しさなどは感じない。