わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「何故、僕が日本を出て行ってそして帰ってきたか話してましたか?」

一花の視線が前を向く。

「いろいろ言ってた。でも正直よくわからなかった。何かあったわけではなくて、あなたの心情の問題だったから。……それこそどっかに書いてないの?」

榛瑠はなにもない事を伝える。

どうやら以前の自分には何かしらの屈託があったらしい。やっていることの整合性が悪い。

どうもこの男は意外と脆弱で面倒なヤツだなと自分を他人のように評価する。

「あ、でもずっと帰ってこなかったっていうのは違った。私の勘違い。一度帰ってきてるの」

そう言う一花の声がわずかに緊張しているように感じた。何かしらその言葉に思うところがあるのだろうが、榛瑠にはもちろんわからなかった。

ほどなく最寄り駅に着く。一花は榛瑠に向き合った。

「じゃあ、行くね。送ってくれてありがとう」

「こちらこそ、届けてくれてありがとうございました」

うん、と言う一花の目が潤んだ。

「あのね、しつこく言うようだけど、本当に大事にしてね。あなた、本当にご両親のこと大事に思っていたの」その大きな目に涙が溜まっていく。「詳しくは話してくれなかったけど、それでも、とても尊敬していて大好きだったの、わかったから。ほんとうに、優しい顔で話してたのよ」
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