わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
え?なに?壁ドン?あるのは殺気だけど⁈

なんだこれ。コブラ対マングース?いや、違うな、うーんと、ベンガルトラ対ユキヒョウ?……って待て、なに考えてる!自分。それどころじゃあないだろ。

鬼塚さんは怒りモードだし、四条さんは煽ってるかってくらい冷静だし。どうすんだよ。

立ち去るか?どうする?ああ、頼むから、長身筋肉質同士で殴り合いとか始めてくれるなよ!

と、鬼塚の手が壁から外され、その手が拳を作った。

佐藤は考えるより早く声を上げて飛び出した。

「二人ともなにやっているんですか!!」

鬼塚が振り返る。睨みつけてくる。佐藤は体が勝手にビクッとして止まるのを感じた。

「……なんだ、佐藤か」

鬼塚が低い声で言う。

「なんだじゃないです。なにしてんですか!」

「べっつに」

そう答えた鬼塚はすでにいつもの口調だった。

「なにが!まじ、ビビりますよ。大体、会社内で揉め事起こしたらあんた達といえど、お咎めなしとはいかないだろうが!」

佐藤はドキドキして言い回しがおかしくなる。

「なんでもありません。ただの、コミュニケーションです」

四条が微笑しながら言ったので、思わず睨みつけてしまう。

「本当です。指一本、お互いに触れていませんよ」

触れてたらやばいだろう!

だが、二人とも、本当に何にもなかったような顔を既にしていた。その事が逆に腹立たしい。

「怖い顔するなって。ところでお前こそこんなとこでなにしてんの?」

そう言う鬼塚に向かって佐藤は手にしていた書類を勢いよく差し出した。
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