わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「この前頼まれてた案件、相手からオッケーとりました。気が変わらないうちに進めるので、さっさとサイン下さい」

「うわ、本当か。さすが、佐藤。仕事確実にこなしてくれるよな」

そう嬉しそうに言いながら筆記具を探す鬼塚に、四条が自分のボールペンを差し出す。

佐藤は内心でため息をついた。調子いいよな。でも、この人は嬉しい感情を波及させるんだよなあ、と思う。

鬼塚が筆記体でサインするのを見ながら佐藤は言った。

「まあ、いいんですけど。まったく、今日は何が起こってるのかと思うよ。あっちもこっちも」

「あっちはどっちよ」

鬼塚がボールペンを四条に返しながら聞く。

「美園さんと勅使川原さんですよ。喧嘩してるとこ出くわして止めて来てみたらこっちも……」

言い終わらないうちに四条が口を挟んだ。

「どこでですか?」

「え?」

「場所」

「下の資料室。でも、もういないかも……」

四条は聞き終わらないうちに立ち去った。階段を駆け下りて行く音がする。

「あの人は一体誰の心配をしているんでしょうね」

「さあな」

そう横で答えた鬼塚を見上げるとにたにた笑っていた。

そういえば喧嘩の原因はなんだったのかな。僕が改めて聞くことでもないけ……。

「あ、しまった。四条さんにも聞きたいことがあったんだった!」

「後にしとけよ」

鬼塚が佐藤の肩をたたいた。
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