わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜

一花は屋敷の二階の廊下の開けたところに置いてある長椅子に座りながら、庭に向かった大きな窓から空を見ていた。

風が強い日らしい。庭の木々が枝を揺らしている。でも、屋敷内は暖かだ。

一花はぼんやりと枝が揺れるのを見ている。午後の庭は明るかった。

付き合っている人と別れると、週末が暇になるのを味わったのはこれで何度目かなあ、と思う。

でも、今までは暇になることはそれほど嫌ではなかった。

今回は嫌とかいうより、何を考えていいのかもわからない。

先のことなんて全く思い浮かばないし、過去を振り返るのもしてはいけない気がした。

過去、かあ、と思う。人にとって過去とは何だろう。榛瑠は意外と平気そうだけどなあ。

失くしてない私の方がキツイって何だろうな。

多分、大事にしすぎたせいだ。

それが普通だったから。

……9年、彼は帰ってこなかった。というか、多分、今回は予定外に帰ってきたにすぎないのだ。

だからまた、いなくなっても、全然おかしくない。

昨日、会社の噂で榛瑠がアメリカに戻るらしいと聞いた。もう、辞表も出していて、後は上層部に通るのを待っているのだと。

篠山さんは大騒ぎしてたけど、ああそうか、って思った。

そういえば、美園さんはどうするんだろう。ついていくのかな。

そう思った時、初めて胸が痛くなった。
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