わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「一花様、寒くはないですか?温かい飲み物でもお持ちしましょうか?」

背後から優しく声をかけられた。

「ううん、大丈夫だよ」

一花は振り返ってそこに立っていた月子に言った。

月子は長椅子に回り込むと、一花に膝掛けをかけた。

「ありがとう」

「今日はいいお天気ですけど、風がありますね」

月子が外を見ながら柔らかい声で言う。そうね、と美しい友人に一花は答える。

二人とも無言で窓の外を見た。風の音が聞こえてくる。

と、月子が一花のそばに跪いた。

「一花様、やっぱりもう一度、四条様とお話しするべきと思います」

一花は黙って首を横に振った。

「でしゃばっているのはわかっています。でも、もっと言葉と時間をかければわかりあえると思うのです。あんなに仲良かったのですから」

一花は月子に立ち上がるよう即した。でも、月子は動かない。

「月ちゃんだったらどうだったと思う?」

「え?」

「月ちゃんが同じ立場だったら?」

月子はしばらく黙って、それから答えた。

「もし、四条様の状況に私がなったら、やっぱり馨さんをお慕いしたと思います。逆の場合はわかりませんが、でも、えっと、頑張ります」

恥ずかしそうに言う月子に一花は微笑んだ。

「私は月ちゃんと鬼塚さんなら忘れちゃっても大丈夫と思うわ」

「一花様‥‥」

「でも、私と榛瑠は違う」

何故?と月子が問う。言葉は柔らかいが視線は一花から外さない。

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