わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
「こう言ったらなんだけど、鬼塚さんより榛瑠のほうがもてるのよね」

一花は笑いながら言った。

「そんなの前からです。理由になりません」

月子は笑うことなく生真面目に答えた。

「うそ。ごめんなさい。鬼塚さんもかっこいいから」一花は微笑みながら訂正した。「‥‥ただ、榛瑠が私じゃなければいけない理由って何だろうって、こんな事になる前も考えたことあるの」一花は窓の外を見ながら言った。「だって、その気になれば選び放題なのよ?」

「特別な何かがあるように見えました」

「うん、そうだった。でも、それって時間が作ったんだよ。ここで一緒に成長した時間が。でも、もうないから。私が特別である理由はなくなっちゃった」

結局、そういう事なのだと一花は思う。

愛されていたことを疑うつもりはない。でも、決して一目惚れではなかった。

月子達とは違う。そこまでに長い時間がかかったのだ。

月子が立ち上がる。彼女の視線は一花ではなくその後方に向かっていた。

「私はそうは思いません」

月子が落ちついた声で言った。

一花は体を捻って月子が見ている方を見た。

そこに、榛瑠がいた。

「え、なんで」

「お荷物を取りに来られたそうです」

答えたのは月子だった。

そういえばそんな事を榛瑠も言ってたな。あれは、いつだったかしら。

「こんにちは」

榛瑠の声は穏やかだった。

「こんにちは」
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