その誕生日はきっと誰かの特別な日。
パソコンを立ち上げて仕事を始める。
昨日の今頃、確かに浮かれていろんな人におめでとうと言われていた。
一日たったらこんなに静かになった私。
そんな浮かれる日が一日しかないなんて、ちょっと自分が可哀想になってきた。

明らかにトーンダウンした私、黙々と仕事をした。
今日は携帯も静かだ。

お昼にはさすがにお腹が空いた。
元気がない自分も嫌になって、里佳子に誘われるままに外に出た。

いい天気だった。

いつも内緒話がある時に行く
小さな喫茶店に行った。

本当に何時でも空いてる。
すごく落ち着くし、美味しいのに。
何でだろう?


「ねえ、昨日、食事したんでしょう?」

「匠から聞いたの?」

「うん、まあね。」

「なんだか急にデートがキャンセルになったみたいで、誕生日なのに誰からも誘ってもらえないから行こうって、誘われた。」

「デート?誰と?」

「知らない、でも私の知ってる人って言ってた。里佳子も知らないの?」

「知らない。デートがキャンセルになったって言ってたの?」

「うん、何だかそんな事言ってたよ。」

眉間にしわを寄せる里佳子。
綺麗な顔が怖くなる。

「どうしたの?」

「一緒にご飯食べただけ?」

「うん、そうだね。すごくいい所だったよ、美味しかったし。」

「それで?」

「それだけ。」

「誕生日なのに?」

「私の誕生日だよ。匠は関係ないよ。ああ、それでも、彼女に用意してきたプレゼント、きまぐれだけど、やるって言われた。」

「プレゼント?何?」

「アクセサリーだと思うけど、人のために選んだものだから受け取れないよ。そう言ったらそうだなってしまってた。」

「ええ~、もらえばいいじゃない。誕生日だよ。」

「何でよ。それでも食事は奢ってくれたよ。払うって言ったんだけど、ちょっと怒ったようにいらないとか言われて。」

「それで終わり?」

「うん、もちろん。駅で別れた。」

「そんな寂しい・・・誕生日じゃない・・・・・・。せっかく・・・・・。」

「そういうなら里佳子だってケーキくらい付き合ってくれても良かったよね。冷たすぎる。危うく一人でご馳走もなしだったのよ。」

「だって・・・・・、じゃあ、秋吉に感謝じゃない。」

「もちろんお礼は言ったよ。」

何だか視線も合わなかったけど。

「う~ん。」

サンドイッチを食べ終わり、腕を組んで天井を見上げて唸る里佳子。

「どうしたの?」

「何だろう?変だなあって思って。」

「何が?」

「いろいろ。」

「今朝は朝ごはん食べれなくて、お腹空いてたんだ。」

「どうしたの?寝坊?私より先に来てたのに。」

「うん、ぼんやりしてたら時間が過ぎてて。」

「ふ~ん。」

何だかあまりおいしい顔をしてない里佳子。
いつもはもっとおいしいって言うのに。


私は満足して、午後も静かに仕事をした。
そして今日も一人で帰った、予定はなかった。

多分誕生日のことは忘れたんだと思う。

自分でもよく分からない出来事だった。
匠の気まぐれだった、ご馳走になり、危うく他人用のプレゼントまでもらうところで。
ああ言った里佳子だって、もし自分だったら貰わないと思う。


アクセサリー、そんなのつけれないよ。
例えば食べ物とかだったら、また買い直してあげればいいよって思えるけど、さすがにアクセサリー、同じ物とか、また買いに行かせるの?
違うものを買うにしてもさすがにね。

年上の人に選んだ大人っぽいものが私に似合うかは微妙。
もしあの時見かけた人なら、絶対違うよ。

昨日はたくさんのおめでとうが届いた携帯。
本当に今日は携帯が静かだった。
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