その誕生日はきっと誰かの特別な日。
「坂本、誕生日なのに、一人なのか?」

声で誰かは分かる。
コイツにはおめでとうは言われてない気がする。

『今日誕生日なんだ。』

そう言った私に。

『そうなんだ。』

それだけだった。
皆一応、『おめでとう。』くらいは言ってくれたのに。

コイツにとっても今日はただの日。
仕事がたまたま早く終わったのかもしれない。
同じエレベーターに乗っていたのかもしれない。

構わず歩いている。

振り向きも返事もしない私の横に並んだコイツ。
同僚の匠だ。

「なあ、坂本、一人なら奢ってやるよ。誕生日だろう。」

覚えてはいたらしい。ちゃんと聞いてたんだ。理解してたんだ。
それなのに『おめでとう。』の一言も言えなかった?

「別にいい。誕生日と言っても特別な感じはないし。」

「お前、朝からあんなに騒いでてそれはないよ。」

・・・騒いでたって、確かに、それはそうですが。

「だってよく考えたらもう二十年以上も前のたった一日の中の数分の出来事をずっとずっと祝うって、変だよね。だから普通の日だと思うことにした。昨日とも明日とも変わらない日。」

「今ならギリギリ逃避とは思われない年齢だな。」

「ぎりぎり?」

思わず声がとがる。
別に全然そんなこと思ってない。
そんなに若いだけが特権的に偉いとか思ってない。
別にいいじゃない。
毎年一つづつ大人になって、その内すごい大人になって、もっと大人になって。

ずっと成長してやる。
年輪という名のシワが刻まれても・・・・・・って思いたい今。


途中隣の存在も忘れて、かつかつとヒールを鳴らして歩いていた。

いきなり腕を掴まれて、思い出した。

「なあ、予約したんだから、せっかくの誕生日だから素直に祝われろ。」

「どうせデートをすっぽかされたとかでしょう?そんな都合よく誘われると思ってるの?」

「ああっ?せっかく誕生日だって浮かれてるから、祝おうと予約したんだぞ。奢るから、行くぞ。」

「それはどうも。そんな事言ったらサプライズにならないじゃない。みんなビックリガックリよ。会社にいる時に行くぞって言えばいいのに。」

「言えるかよ、それにちゃんとサプライズは用意してあるし。」

「もうサプライズでもなんでもないじゃない。」

「・・・・。驚くよ。」

そう低い声で言って、腕は離された。
同じ方向を向いて歩きだしたから、もういいだろう、ついてくるだろうと思われたんだろう。

皆も全然そんなそぶりも見せてなかったのに。
なんでコイツに声をかける役を振ったんだか。
他に適任がいただろうに、よりによって。

だいたいサプライズがあるって言った時点で驚く気分は少し減るじゃない。
あるあるって思って、いついつって思って、何何って期待するし。

・・・・アホ。
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