その誕生日はきっと誰かの特別な日。
「音羽~!」

里佳子の声がして、つい顔をあげた。

そこには携帯が・・・・・・、まさか動画?

満足したのか、携帯を下ろして手を振る。
良かったせめてカメラだったらしい。

そしてなぜか空いてる真ん中の席に座らされた二人。
いい加減手を外したいのに、なかなかしぶとい。
時々緩んだ隙に離そうとするのに、力が入ってやり直し。

ああ、せめて保留で週末考えたいと言えばよかった。
多分結果は来週同じことが繰り返された気がするけど、それなりに匠のしつこさも何とかなってただろう。

「なかなか戻って来ないから心配したよ。」

甲斐君がそう言った。

「だからって様子見に来るなよ。」

「盛り上がってたから、声はかけないですぐ帰ったじゃないか。」

ん?いつ?いつ?ちょっとそこ大切!!

「甲斐君、聞きたくないけど、いつ来たの?」

「言っていいの?」

「あ~、ダメダメ、内緒のシーンでした。音羽、安心して、一回目の時だよ。」

お前が言うな・・・・。
そんな言い方じゃ二回目があると思うだろう!!

「私見たのは何回目?」

里佳子が聞いた。

・・・・・ああ・・・・・二回しかしてないです。
甲斐君と時間差だとしたら二回目です。


「何回目だろう?分からないや、気がつかなかった。心配してくれたの?悪いね。」

「え~、まさか、盛り上がってるって甲斐君が嬉しそうに報告に来るから、代表してちょっと見学に。」

「じゃんけんする間もなく、代表で確かめてきますって行かれたから、見てないんだよね~。」

はい、お終い・・・・。
皆知ってる、その盛り上がったシーンとやらを。

「動画は勘弁してあげた。暗かったから全然写らなかったし。」

・・・・それを盗撮と言います。何で撮ろうとしたの?

「音羽、おめでとう。は~、良かった~。さすがに鈍感過ぎて同情票だけで皆応援したんだから。ライバルがいないって平和でいいね。」

「そうそう。誕生日までゆっくり待てた。」

「その割には変な結果だったけど。まあ、いいか。一応誕生日の週末ということで。来年も別れてなければしみじみと思い出すだろうね。」

「千葉さん、縁起悪すぎ。変な予言やめてくれる?」

「頑張って。思ったより進行早そうだし。一気に決めていけそうだね。」

「まあ、期待には応えたいけど。」


何の話ですか?さっきから一言もありませんが。

「いいなあ、音羽ちゃん。僕も可愛いって思ってたのに。」

「先輩、残念でした。音羽の好みは目と鼻と口がついて手足がある人なんですけどね。先輩何か欠けてますか?」

酷い!甲斐君、そのまま言ってるじゃない!!
冗談に決まってるのに。ちょっとムカついたから言っただけなのに。

「実は片目しかないんです。」

「だから音羽が可愛く見えたんだ。先輩どこかの魔法使いに頼んで片目を取り返してから、運命切り開きましょう!!」


「里佳子、ちょっと酷くない?」

「ああ、やっと顔をあげた。もう、諦めて。みんなイリイリして見守ってたんだから。誰かが全くの鈍感ちゃんで、この二日間皆も心配してたのよ。」

何と、誕生日当日の夜のこともバレてるの?

「良かったなあ。しみじみ。本当に大変だった。」

「匠にそんな事言う権利はない!!」

「いや、あるよ。その辺はしっかり反省してもらう。」

「何をよ?」

「はいはい、ごちそうさまです。あとは二人で長い週末を楽しんで。据え膳どうぞ召し上がれ!」

「ご馳走になりたいけど、さすがにそこまでは。デートくらいにします。」

「ええ~、面白くないなあ。意外に慎重派?」

「だって音羽が嫌がりそうだし。出来立ての彼女が一番。」

「アホらしい。どうぞご自由に。」

手はつないだまま、もう勝手にしてくれ・・・・。

何て思わない、当たり前だ。
まだまだ考えたいことはいっぱいあるんだから。

結局二人はご祝儀ということで千円だけ出して後は残りの人が奢ってくれた。
だって、あんまり食べてない、飲んでない気がする。
結構な時間外にいた気がするし。
妥当とすら思えるけど。
まあ、いい。とりあえずみんな忘れて欲しい、願うのはそれだけ。

最後に匠が会社ではしばらく内緒でお願いしますと言っていた。
みんな返事は良かった。

信じたい。


器用にそこの記憶だけなくすようなことはしないでください。



来年から誕生日の日も大人しくすることに決めた。
別におめでとうは匠が言ってくれればいい、満足するだろう。

量より質。

むしろもう絶対言えない!
ひっそり静かに過ごしてやる。
誰も思い出さないように、ひっそりと普通の日のように。

それに来月の匠の誕生日・・・・・。
365分の二日。

ちょっとだけ特別な日が増えた日。
二倍に増えた。

きっといいことも二倍になるから。



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