その誕生日はきっと誰かの特別な日。
「でもいい所だね。来たことあるんだ、特別な時に使ってもいいくらいなのに。」

「そうだろう?特別な時に使うんだよ。」

「ふ~ん。」

何度か使ったんだ、特別に。

「料理は勝手にコースにしたから、別にいいよな。」

「それはもちろん、奢りならどうぞどうぞ。お任せいたします。」

笑顔で奢られてやる。

「やっとご機嫌になったか?」

「別に不機嫌じゃないよ。ただ、ちょっとだけ寂しかっただけだよ。現実は私の特別な日に意味はないんだなあって。」

「まあ、それはおいおいな。」

お酒が運ばれてきた。

グラスに注いでもらって、乾杯する。

ろうそくに火が入り、テーブルにキャンドルホルダーのガラス越しの赤い輪ができる。
いい雰囲気。
・・・誰と来たのよ、何で今日もここなの?

グルっと店内を見回した。

さっき一人で先に入っていた女の人がいた。
テーブルで静かに本を読んでいて、すごく綺麗な人だった。
一人でもなんとなくこんなお店が似合うって思ったけど、丁度待ち合わせの人が来たみたいで。

男の人に声をかけられた、その瞬間の笑顔を見た。

やっぱり綺麗だった。

思わず見とれるくらい。

大人の男の人が、ゆっくり荷物を下ろしながらジャケットのボタンを外して、笑顔を返す。
素敵な二人だった。


しばらくぼんやりと二人を見ていた。


「もしかして知り合いなのか?」

「へ?」

「さっきもあの人、見てたよな。知ってる人か?」

「ううん。綺麗な人だと思って見てただけ。」

「まあ、そうかもな。」

まあ、じゃないくらい綺麗だよ。
好みは別にして誰もがそう思うくらいには。
多分今日は少しおしゃれもしてるんだろう。

なんだか私もお気に入りのスーツにしたけど、何だかやっぱり違うなあ。


ゆっくり自分の恰好を見て、ため息をついた。

顔をあげたら、ぼんやりしてグラスを持つ匠と目が合った。

ゆっくり視線をそらされた。

< 4 / 20 >

この作品をシェア

pagetop