その誕生日はきっと誰かの特別な日。
また、静かになったテーブル。

私はずっと俯いたままだし、匠もずっと口を開かない。

いつもはあんなにうるさいのに。

「ごめんね。せっかく誘ってくれたのに。」

「だから気まぐれだって。気にするな。」

「ありがとう。いいお店だったのに、残念だったね。」



「帰るか?」

「うん。」


テーブルでお会計をしてもらう。

金額は分からない。
請求書が挟まれた黒いものは匠にしか見えなかった。
外で払おう。
ちゃんと自分の分くらい。

匠にとって今日は普通の日よりちょっと残念な日だったかもしれない。
そんな日に奢らせたら悪いし。

私にとってはちょっと美味しい普通の日だった。
昨日から、明日に続く、そんな間の普通の日より少しだけ美味しい日。


外に出てお会計をお願いした。

「何でだよ。」

ちょっと怒り気味に言う匠。

「申し訳ないし。」

「それ以上言うなよ。受け取りたくない。いらない。帰ろう。」

そう言ってさっさと歩きだされた。

手には財布がある。でもその背中はそれ以上は拒否って言ってる。
大人しくバッグに財布をしまった。

「ごめんなさい。」

「もういいよ。」

「はい。」


駅で別れた。

最後まで視線が合わなかった。
私は俯き、最後に見たのは匠がお疲れと言って半分以上背中を見せた後だった。

誘われなきゃよかった。そう思った。
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