君と傘。



一口飲んだ。甘いオレンジの味が口いっぱいに広がる。一方、彼はサイダーを買ったらしくぷしゅり音を鳴らして、飲んでいた。


先に飲んでてもよかったのに。



「………」


「……………」


ベンチに二人っきり。言葉を交わさず、前を見据え座るだけ。


雨の音しかない世界は居心地がいい。


さっきまでつまらなく感じた雨の風景は、なぜだか今はずっと見ていたい気分だ。

ペットボトルをベンチに置く。手が触れ合う。


お互いびっくりして少し引っ込めてしまったけれど、二つの手は近づいておそるおそる指を絡める。


冷たい飲み物を触っていたせいか指先は冷たかった。


目が合った。ちょっと照れているのかほんのり顔が赤い。目をそらされた。



またこちらを向く。



あ、耳まで赤い。



近づく距離と聞こえる雨の音。その音に紛れて、心臓の音まで聞こえそうだ。


多分、5秒ぐらい。いや、本当はもっと短かったのかもしれない。でも、私にとっては数分のように感じれて。


ほんのちょっと触れあった唇。


視界の端に透明な傘。目の前にさっきより赤くなった彼。



今度は私から。




彼に触れるようなキスをした。












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