二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
やさしいひと
ぼんやりと目を開けると、夢で見ていた真っ青な空ではなく、アパートの薄暗い天井があった。

随分良く眠った気がする。実際もう日が傾いているようなので、結構な時間眠っていた事になる。

暑苦しいはずの室内がやたら心地よく感じたのは、首もとの水枕のおかげらしい。家には無かったはずの物だ。
汗だくだった衣服も、別のものに取り替えられている。

どうしたんだっけ?
回らない頭で考えて、ゆっくりと自分の置かれている状況を思い出す。

風邪で寝込んでいたところに学がやってきて、ひどく怒らせてしまった。
怒った学を怖いとは思わなかった。だって、本当はわかってる。芽衣のことを思うがゆえの怒りだと。
だから嬉しかった。たぶんあのまま怒りで、最後まで乱暴に抱かれても、相手が学なら許せただろう。

でも彼は芽衣を壊れ物のように優しく抱いた。
誰かに大切にされたことのない芽衣は、この気持ちをなんと表現したらいいのかわからない。幸せなのに、とても不安なのだ。


室内からはトントン、グツグツ、耳触りの良い音が聞こえてくる。芽衣は身体をおこして、音の所在を確認した。

「……何してるんですか?」

布団のすぐ脇にある小さなキッチンの前で、シャツの腕を捲った学が、包丁を持って何やら作業をしている。

「ああ、起こしちゃった? 気分はどう??」
「もう大丈夫です、随分楽になりました。……あの、枕とか、その……着替えは……」
「枕は近くの薬局に売ってたよ。着替えは……ごめん、風邪なのに、あのままって訳にいかないから、勝手に出した」

今着ているのは、よく部屋着にしている、ワンピースタイプのTシャツだ。そして下半身は……こちらも今日身につけていたものとは違う、別の下着に取り換えられていた。
行為の後に全裸のまま眠りこけ、下着の着替えまで学にしてもらっている状況……芽衣は想像して、布団に潜りたくなった。

物の無いこの部屋で、着替えを探すのは難しくはなかっただろう。貧相な中身の衣装ケースも全部見られてしまったかもしれない。
そして何より、その前の段階で、自分の身体のすべてを見られてしまった事も思い出し、二重に恥ずかしくなった。
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