二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
やっぱり恋愛なんて向いていない。
甘さを知らなければ、後からやってくる苦味を知ることもなかったのに。
できれば一生引きこもっていたかったが、芽衣の丈夫な身体は心を置き去りにしてすぐに回復してしまう。
週明けから、以前のように何もない日常が始まる。
ハウスキーパーの仕事で、初江の家を訪問した芽衣は、部屋の掃除中に来客を知らせる呼び鈴を聞き、玄関に向かった。
「こんにちは。貴方が芽衣さん? 私ここの家の孫の遥よ」
遥(はるか)と名乗った女性は、さっさと靴を脱いで家に上がると、芽衣に愛想の良い笑顔を向け、近くでエステサロンを経営していると名刺を渡してきた。
「内田……遥さん? えっ……内田……?」
手渡された名刺と、目の前の女性を交互に見比べる。
内田という名前は、それほど珍しくはない。けれども、ふと目に止まったのは、彼女の右肩にかけられた、オレンジ色のバッグの存在だ。
オーストリッチの高級バッグ、栗毛色の巻き髪、上等なピンヒールのパンプス……彼女は先週、学と一緒に駅前を歩いていた女性だ。
「初江おばあちゃんは、母方の祖母なの」
外孫という事になるのだろうか? だから苗字が違うのだろう。
「あの、えっと……遥さんは……その、もしかして学さんの……?」
恐る恐る尋ねた芽衣に、遥はいたずらっ子のような顔で言った。
「姉よ……フフフ」
言われて見ると、その鼻筋が通った端正な顔立ちは、どことなく学に似ていた。
「挫折知らずの弟を、へこませた女の子がいるっていうから、拝みにきちゃったわ」
「……すいません」
芽衣は反射的に、謝罪の言葉を口にした。
「あら、謝る事なんてないわ! むしろ感謝しているくらい。あいつは昔から、乙女心のわからない奴なの。ちょと痛い目みるといいのよ! ああ、いい気味!!」
甘さを知らなければ、後からやってくる苦味を知ることもなかったのに。
できれば一生引きこもっていたかったが、芽衣の丈夫な身体は心を置き去りにしてすぐに回復してしまう。
週明けから、以前のように何もない日常が始まる。
ハウスキーパーの仕事で、初江の家を訪問した芽衣は、部屋の掃除中に来客を知らせる呼び鈴を聞き、玄関に向かった。
「こんにちは。貴方が芽衣さん? 私ここの家の孫の遥よ」
遥(はるか)と名乗った女性は、さっさと靴を脱いで家に上がると、芽衣に愛想の良い笑顔を向け、近くでエステサロンを経営していると名刺を渡してきた。
「内田……遥さん? えっ……内田……?」
手渡された名刺と、目の前の女性を交互に見比べる。
内田という名前は、それほど珍しくはない。けれども、ふと目に止まったのは、彼女の右肩にかけられた、オレンジ色のバッグの存在だ。
オーストリッチの高級バッグ、栗毛色の巻き髪、上等なピンヒールのパンプス……彼女は先週、学と一緒に駅前を歩いていた女性だ。
「初江おばあちゃんは、母方の祖母なの」
外孫という事になるのだろうか? だから苗字が違うのだろう。
「あの、えっと……遥さんは……その、もしかして学さんの……?」
恐る恐る尋ねた芽衣に、遥はいたずらっ子のような顔で言った。
「姉よ……フフフ」
言われて見ると、その鼻筋が通った端正な顔立ちは、どことなく学に似ていた。
「挫折知らずの弟を、へこませた女の子がいるっていうから、拝みにきちゃったわ」
「……すいません」
芽衣は反射的に、謝罪の言葉を口にした。
「あら、謝る事なんてないわ! むしろ感謝しているくらい。あいつは昔から、乙女心のわからない奴なの。ちょと痛い目みるといいのよ! ああ、いい気味!!」