二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
どんよりと曇り始めた空のせいか、生ぬるい夏の夜風がまとわりついてくる。
学のマンションを後にして、夕方からは大学の講義を受講。芽衣が自分のアパートに戻って来たのは、夜九時すぎだった。
三畳の部屋と、簡単なキッチン、狭いトイレと風呂、そして小さな押入れ。ひとつだけある窓を開けても、隣家の壁に阻まれて、心地よい風は入ってこない。築三十年になるという二階建てアパートの一室は、学のマンションとは大違いだ。
それでも、唯一自分が安らげる場所。芽衣は無造作に靴を脱ぎ捨てると、そのまま畳に突っ伏した。
「疲れた……」
これから夕食も用意しなくちゃいけないし、できれば勉強もしたかった。でも、今日はそんな気力は残されていない。
このまま寝てしまおうか、でも明日も仕事があるし……。そうやって自分と葛藤していると、どこからか電子音が響き、気怠いまどろみから引き戻された。
慌ててバッグの外ポケットからスマホを取り出すと、その画面を注視する。
ディスプレイには「内田学」の表示。
「……もしもし? ……山奈です」
意図せず、少し掠れたような声になってしまった。
『こんばんは、内田です。今大丈夫? 学校はもう終わったかな?』
「はい。今はもう家に戻ってきました」
学が直接連絡をしてくる事は滅多にない。何かミスをしてしまったのだろうかと、不安になる。
『今日なんだけど、テーブルの上に、何か置いてなかった?』
学が少しためらうように、芽衣の様子を探りながら問う。「何か」があのプレゼントだという事はすぐに予想がついた。
「……はい、ありました。どなたかへのプレゼントのような箱が一つ。でも私、触ってません」
嘘ではない。気になって、手にとってしまいそうになったが、未遂だ。ひょっとして、中身が壊れていたのだろうか? 問題が発生して、疑われているのだとしたら、一体どうすればいいのだろう。次に学が何と言ってくるのか、たった数秒の間がやたらと長く感じた。
『いや、違うんだ。あれは誰かにあげようと思っていた物じゃなくて、いや、あげるんだけど……あそこに置いとけば気付いてもらえると思って』
「……気付きましたけど?」
『うん、そうだね。つまりね、君へのプレゼントのつもりだったんだ』
学のマンションを後にして、夕方からは大学の講義を受講。芽衣が自分のアパートに戻って来たのは、夜九時すぎだった。
三畳の部屋と、簡単なキッチン、狭いトイレと風呂、そして小さな押入れ。ひとつだけある窓を開けても、隣家の壁に阻まれて、心地よい風は入ってこない。築三十年になるという二階建てアパートの一室は、学のマンションとは大違いだ。
それでも、唯一自分が安らげる場所。芽衣は無造作に靴を脱ぎ捨てると、そのまま畳に突っ伏した。
「疲れた……」
これから夕食も用意しなくちゃいけないし、できれば勉強もしたかった。でも、今日はそんな気力は残されていない。
このまま寝てしまおうか、でも明日も仕事があるし……。そうやって自分と葛藤していると、どこからか電子音が響き、気怠いまどろみから引き戻された。
慌ててバッグの外ポケットからスマホを取り出すと、その画面を注視する。
ディスプレイには「内田学」の表示。
「……もしもし? ……山奈です」
意図せず、少し掠れたような声になってしまった。
『こんばんは、内田です。今大丈夫? 学校はもう終わったかな?』
「はい。今はもう家に戻ってきました」
学が直接連絡をしてくる事は滅多にない。何かミスをしてしまったのだろうかと、不安になる。
『今日なんだけど、テーブルの上に、何か置いてなかった?』
学が少しためらうように、芽衣の様子を探りながら問う。「何か」があのプレゼントだという事はすぐに予想がついた。
「……はい、ありました。どなたかへのプレゼントのような箱が一つ。でも私、触ってません」
嘘ではない。気になって、手にとってしまいそうになったが、未遂だ。ひょっとして、中身が壊れていたのだろうか? 問題が発生して、疑われているのだとしたら、一体どうすればいいのだろう。次に学が何と言ってくるのか、たった数秒の間がやたらと長く感じた。
『いや、違うんだ。あれは誰かにあげようと思っていた物じゃなくて、いや、あげるんだけど……あそこに置いとけば気付いてもらえると思って』
「……気付きましたけど?」
『うん、そうだね。つまりね、君へのプレゼントのつもりだったんだ』