二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
「……え?」

『もうすぐ誕生日だよね』

確かに、明後日は芽衣の二十一歳の誕生日だったが、唯一の家族だった母親を亡くして以来、誕生日を祝うという感覚を忘れていた。

「あのっ、お気遣いありがとうございます。でも私……」

学にそこまでしてもらう理由がない。しかし、せっかく用意してくれたというのに、無下に断って良いものなのか、芽衣は判断に迷い、言葉を続けることができなくなった。

『君が受け取ってくれないと、すごく困る。山奈さん、確か明日は仕事なんだよね? 日曜日はどう? できれば直接渡したいんだけど』

日曜日、それは誕生日当日だ。そんな日に彼に会える。今まで何の思い入れもなかった誕生日が、急に特別に思えてくるから不思議だ。

申し訳ないとか、立場をわきまえないと、という思いがあっという間に吹き飛んでゆく。

「あっ、ありがとうございます。日曜日は予定はありません。内田さんの都合の良い時間に伺わせて下さい」

舞い上がる気持ちが抑えられない。芽衣は自分がちゃんと話せているのかもよくわからなくなってきた。

『せっかくだからどこかに出掛けない? ……これはデートの誘いなんだけど』


芽衣は、二十年間封印してきた種の感情が、急速に成長していくのを感じていた。
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