きみと手を繋いで眠りたい
「俺の顔になにかついてるの?」
「いえ、なにも。とってもお綺麗です」
「はは、なにそれ。奈子ちゃんは面白いな」
先輩の笑顔に胸がきゅんっとなる。
前澤先輩を好きになったキッカケはいわゆる一目惚れだった。
高校に入学して、もしかして初めての彼氏ができちゃうかも?なんて浮かれていた私に、『昇降口はあっちだよ』と教えてくれたのが先輩だった。
私にとって高校生はすごく大人なイメージで。憧れだった可愛い制服を着てるだけで自分も大人の仲間入りができたような気がして。
けれど、ふたつ上で、しかも生徒会長の前澤先輩は、私が思うよりもずっとずっと大人に見えて、一瞬で心を持っていかれてしまったのだ。
その日から早半年が経過して、今では連絡も取ってるし、こうして奈子ちゃんと呼ばれて仲良くしてもらってるけど、先輩にとって私はたくさんいる後輩の中のひとりに過ぎないことは分かってる。
だけど、もしかしたら私にもチャンスがあるかもしれないという希望は捨てたわけじゃない。
「涼悟(りょうご)」
と、その時。別の道から一際足の長い人が歩いてきた。前澤先輩の彼女だ。
「今日調理実習でマフィン作るんだけど食べたい?」
「家に持ってきてよ。夜食で食べる」
「えー時間経っちゃうじゃん。だったら調理実習のじゃなくてマフィンは涼悟の家で作ってあげる」
ふたりのラブラブなやり取りに耳を塞ぎたくなった。