約束の白いバラ
*
「漣夏!グッドモーニング!」
元気に声をかけてきたのは親友の初音。生まれて三年ほどでアメリカに行きそのまま育ち二年前に日本に戻ってきたばかりの彼女は少し片言混じりの日本語を話す。
ふたつ結びにした赤茶色の髪の毛がふわふわ揺れている。
「グッドモーニング、初音」
並んで学校へ向かう。付き合いの長い神音の隣は心地いい。
他愛のない話をしながらクラスに入り席に座る。
既に来ていた近くの席の子と挨拶を交わしてから準備をしていると声を掛けられた。
「そうだ、二人共最近有名な男の子知ってる?同い年くらいらしいんだけど」
容量の掴めない不思議な問いになんとも返しようがなくてどういうことか聞き返すと彼女は知っていることを詳しく教えてくれた。
なんでも、この地域一強いと言われている不良のペアがいるようで。
「その二人がね、すっごくかっこいいんだってよ」
不良、と言うだけであまりいい印象はないなんて勝手に思いつつも頷きながら曖昧な相槌を打つ。
彼女はその反応に気を良くしたようで話を続ける。
「その人たちの学校ね、この近くらしいの。知らない?黒の学ランとセーラー服の…」
「…在り来りすぎて難しいね」
でも今時セーラー服の学校なんて珍しい気もする。私たちの学校もブレザーだし。
ひとつ思い当たることがあって前の席に座って首を傾げながらパンを頬張る初音に声をかける。
「初音のお兄さんってここの近くの学校だったよね?」
初音はお兄さんと顔立ちがよく似ていて二人とも整った顔立ちだ。この年の男女にしては兄妹関係は良好でよく話に出てくるし写真を見せてもらったこともある。
「鬼龍高校だよ、あの不良高校」
「やっぱり!そこじゃない?」
「そう言えば聞いたことあるよ、そこの3年生にこの辺りで一番強い二人組いるって言ってたね」
初音の言葉を聞いて、周りの女の子たちは行ってみようかな、なんてきゃあきゃあと騒いでいる。
「やめときなよ、あそこ危ないもん」
初音は興味無さそうに忠告すると二つ目のパンの包みを破る。
朝ごはん食べてきてるよね?あなたいくつ食べるつもり…
チャイムがなったからお喋りもそこそこにみんな席へ戻り始める。初音もパンをもぐもぐしながら前を向いた。それと同時に先生が前の戸から入ってきた。
「ホームルームを始める~、橘樹はパン食ってんじゃねぇぞ〜」
私たちの担任は若い先生だけど緩いし生徒の気持ちをよくわかってくれてあまり干渉しないタイプだから楽なんだ。
挨拶をしてから連絡事項を軽く告げられて、いつも通りの一日が始まった。