最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
prologue ☆
――PiPiPi PiPiPi ……
まだ眠りの淵にいる頭の中を、電子音が切り裂いていく。
寝起きの悪い私のために、と笑いながらプレゼントされた、大音量の目覚まし時計だ。四つセットされていた時計は、これが我が家にやってきてからはめでたくお役御免になった。これ一つで起きられるようになったのは、その音量のせいか、それともこれを贈ってくれた人の顔が思い浮かぶからだろうか。
よし、と心の中で気合を入れて、勢いよく起き上がる。
いつも通りの手順で支度をして、いつも通りに込み合う電車で人波に揉まれながら通勤する。車内は暖房と人いきれで熱いくらいだったけど、一歩外に踏み出すと途端に体を冷気が包んだ。
駅からの道の途中で、目についたポインセチアの花鉢を買った。顔なじみの守衛と朝の挨拶を交わして、手早く着替えて持ち場へと向かった。
いつも朝の早い上司は、今日は珍しくまだ出社していないらしい。主のいない部屋の中を軽く掃除して、萎れ始めてきたシクラメンの代わりにポインセチアを飾った。
この部屋に初めて花を飾った時の、上司の表情が忘れられない。あれ以来、この部屋に花を絶やしたことはない。
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