最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
「これでも小学校の時はエースピッチャーだったんだ。リトルリーグの地区大会で優勝したこともあるんだぞ。まあ、全国大会は初戦敗退だったけど」
「すっごい、意外……」
「その時のメンバーで甲子園目指すんだ、ってみんなで盛り上がってさ。……だけど、俺だけ一緒の高校には行けなかった」
横膝で座る私の横に寝そべって、両肘をついた格好で上半身だけ起こし、少年たちを見ながら懐かしそうに目を細める。
「突然現れていきなり連れていかれて、今日からお前は上條東吾です、って言われてもさ。訳わかんないし、でも抵抗なんてできないじゃん。母親は血吐いて倒れて、明日からどうやって生きていけばいいのかさえ分からなくて、縮こまって泣いてた中学生のガキにはさ」
誰もいない病院の待合室の片隅で、椅子に座って膝を抱えて泣いている少年の姿が、脳裏をよぎった。
不安と恐怖を抱えながら、ひとりぼっちでうずくまっている……どれほど心細かっただろう。
「余命半年って言われた母親が、二年も生きられたのは、上條の家が金を出して、手厚く看護してもらえたからだと思う。その点は、本当に感謝してる」
でもさ、と呟いて、上半身も倒して完全に寝転ぶと、空を仰いだ。
「やっぱ死んじゃったんだよ。俺は取り残されたんだ。……思うんだ、もしあのまま、二人きりで、半年で死んでたとしても、それはそれで幸せだったんじゃないかって」
雲を掴むように、手を伸ばす。その手には何も触れるはずもなく、ただ宙を切って、それでも何かを掴むように拳を握った。
「母親は俺が上條に引き取られることを喜んだよ。でも俺は、施設に入ったって良かったんだ。でも母親が嬉しそうだと、もう何も言えなくて」
伸ばした腕を真横に投げだして、拳は握られたまま地面に落ちた。両腕を大きく開いて、目は真っすぐに空に向かう。