最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
「今の俺は、上條に与えられたものでできてる。大きなこともやれてるし、やりがいだって感じてる。でも俺は」
東吾の視線の先を追うと、夕陽に染まった雲がゆっくりと流れて、形を変えるところだった。筋を描くように細く、長くたなびいていく塊が、やがてすっと、その先から消えていく。
東吾はそこで、話すのをやめてしまった。
しばらく待ったけど、ただじっと、空を眺めているばかりで。
俺は。
一体何者なんだろう?
何がしたいんだろう?
どこへ向かいたいんだろう?
その続きに、何を言おうとしたのかは、私にはわからない。
「上條、やめちゃえば?」
消えてしまった雲は、水蒸気になって、また形を変える。
今度はどこで生まれ変わるのか。
「会社辞めて、家を出て、ただの東吾になって。一緒にどこかで暮らそう」
私は本気だった。今のままよりもそうした方が絶対幸せになれるし、私たちには合っている、と思った。
でも東吾は、ふ、と笑って呟いた。
「いいなあ、それ。楽しそうだな」
まるで本気にしていないような声で……というよりも、まるで期待していないような声で。
もうすでに、彼は上條から逃れられないのかもしれない。自分の立場も責任も、きっと嫌なくらいにわかっているから。
握られた拳の上から手を重ねると、掌が上を向いて、そのまま指が絡んだ。
手を繋いだまま、私たちは流れる雲を見上げていた。