最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
東吾の隣で、目を閉じて手を合わせる。
会ったことはないけれど、きっと優しくて、強い女性だったんだろう。運命に翻弄されて、短い生涯に終わって、客観的に見れば恵まれた人生ではなかったのかもしれない。それでも、時折東吾の口から語られる女性の姿は、いつもいきいきと、生きることを楽しんでいた。
せめて空の上では、心穏やかに過ごしていられますように。
祈り終えて顔をあげると、沈みかけた夕陽が雲の切れ間から現れて、強いオレンジの光に目を射られる。落ち切る前にひときわ鮮やかに強まる光は、自分の身を焦がすことで存在を主張しているようでもあった。
手を合わせ続ける東吾を、隣で息を潜めて待った。辺りは静寂に満ちて、ただ風が木の葉を揺らす音だけが響く。
長く頭を垂れていた東吾は、やがて体を起こし、お墓を見やって眩しそうに目を細めた。
お母さんとの会話は一息ついたのか、目線がこちらに移ったのを見て、私は体ごと、東吾のほうを向く。
東吾も同じようにこちらに体を向けた。
お母さんの眠るお墓を挟んで、二人、相対する。
「今日は連れてきてくれて、嬉しかった」
「こっちこそ。一緒に来れてよかった」
ふわりと笑う東吾につられて、私も微笑む。そのまま少し、見つめ合った。