最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

「お話があるのですが」

 私が退職願を差し出すと、神崎室長は一瞬動きを止めたものの、すぐにいつもの秘書スマイルに戻ってそれを受け取った。

「少し場所を替えましょうか。面談室で待っていてください」

 そう言って立ち上がると、退職願の封筒はデスクにしまってから、自分は給湯室に消えていった。何か淹れてくれるのだろうか、今日ばかりは室長に甘えて、私は先に面談室へと向かう。単に小さな会議室をパーテーションで仕切ってあるだけの、悩み相談から簡単なミーティングまで幅広く行われる部屋だ。

 一番左のコーナーを使用中にして、ぼんやり座って待っていると、お盆を片手に室長が入ってくる。どうぞ、と置かれたコーヒーを一口啜ると、私でも違いがわかるほどの香りの高さが鼻孔を抜けて、ぎょっとする。

「これ、もしかして真彦社長専用のやつじゃ……」
「たまには贅沢させてもらってもいいでしょう。どうせ私が管理してるんですから」

 室長は簡単に言うけれど、真彦社長が来るときにだけケミカル本社から取り寄せる、一杯いくらか想像もつかない高級品だ。絶対もう二度と飲めないやつだ、じっくり味わおう。
 こちらもどうぞ、と差し出されたお菓子は、来客用のゴディバ。おいおいいいのかよと若干びびりつつ、まあいいかと有難く一ついただく。高級コーヒーとゴディバの組み合わせ、至福。
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