最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

「一体何を言いたいんですか」

 憤りを隠しきれずに尖った声になる俺に、父は気にする様子もなく語り続ける。

「私は後悔したし、今でも後悔し続けている。きっと死ぬまでその思いは抱き続けるだろう。悔み続けてもどうにもならんとわかってはいるが、それでもあの時こうしていたら、と思わずにはいられん」

「……なんの、話を」

「お前は間違えるな。負の感情は判断を鈍らせる。過去の記憶に引きずられれば現在の思考に靄がかかる。過去はどうやっても変えられん。常に考えるべきは未来だ」

「その未来を、中学生の俺から取り上げたのは誰だ」

 自分のことは棚に上げて、わかったようなことぬかしやがって。

 未来も母親も、意思すら全部取り上げて、上條東吾として作り替えたのは一体誰だ。

「あの時のお前とは違う。今のお前にはもう自分で選ぶ力がある」

「もっともらしいこと言ってんじゃねえよ。元はといえばあんたが悪いんだろうが。あんたが俺ら二人勝手に捨てたくせに、中途半端に迎えに来るから母さんはあんな死に方しかできなかったんだ。全部あんたが」

「だからだ。お前は私のようになるな」

 いつもと変わらない無表情で、勝手な正論を並べ続ける。その正しさに吐き気がした。

 立ち上がった俺を父は目線だけで追いかけてくる。

「東吾。冷静になれ。負の感情は捨てて、今の自分だけ見つめ直せ」
「うっせえ」

 怒りに任せて足元にあった椅子を蹴り上げ、速足でその場を立ち去る。

 背中に感じる視線にどこか哀れみが込められているような気がして、それが一層神経を逆撫でた。
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