最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 待機中くらい休んでいればいいものを、バカ真面目に車体を磨いていた松原は、怒気を含ませてやってきた俺を見て軽く目を見開いた。

「どう……」
「車出せ。どこでもいいから適当に走らせろ」

 余計な詮索をされる前にさっさと後部座席に乗り込むと、松原はすぐに察して車を出した。長い付き合いになるこの男は、俺の機嫌を読むのが誰よりもうまい。

 無言のまま、外の景色を眺め続ける。流れる景色は街中を抜けて郊外へ、松原はあえて自然が多い方へと向かっているようだ。根っからの野生児の俺は、緑が見える方が気が休まる。

 落ち着いてきたのがわかったのか、松原が控えめに声をかけてきた。

「なにかございましたか?」
「クソ親父の胸糞悪い説教に捕まったんだよ」

 不機嫌な俺の言葉に、松原が驚いたように目をしばたかせたのがバックミラー越しに見えた。

「真彦さまが、ですか」
「天変地異の前触れかな」

 あんなふうに説教かまされたのも初めてだし、怒鳴ったのも、思えば敬語以外を使ったのも初めてだ。世間一般の親子喧嘩っていうのはあんな感じなんだろうか。

 さっきは怒りで思考が麻痺していたが、あの回りくどい話が、雅さんとの婚約のことを言いたかったのだと、冷静になればわかる。さっきの話の内容は、考えれば考えるほどあの父が言いそうにないことばかりだった。上條を捨てて里香を選ぶ道もあると言いたかったようだが、本当に何を今更そんなこと。

 あの人の抱える後悔とは、一体何だったんだろう。母さんと俺を迎えに来たことか、そもそも俺という存在を作ってしまったことか、それとも。
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