最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 思考に沈んでいる間に、窓の外の景色が見慣れたものになり始めた。案の定、松原が車を止めたのは母さんの墓地の駐車場で。

「なんでここ?」
「昨日は美園(みその)さんの月命日でしたから」

 そう言えばそうだった。月命日まではほとんど意識していなかった。命日だけは欠かさずに参ってきたけど、それ以外はたまに足を運ぶ程度で。

 母さんが死んだばかりの頃は頻繁に訪れていたはずなのに、時間が流れるにつれいろんな感覚が薄れていく。人が生きていくためには必要なことなのかもしれないけど、なんだか少し寂しくも思う。

 もう目を閉じても辿り着けるくらい慣れた道を通って、母さんの墓前に進む。今日は松原も後ろをついてきた。

 そこはいつも命日の時に目にするのと同じように、きれいに掃除されていた。俺たちが置いていったはずの花やろうそくなんかは撤去されて、替わりにまだ新しい花に交換されている。

「なんだお前、月命日にまで参りにきてたのか」

 そんなに母さんのことが好きだったのかと半ば驚いて振り向くと、松原は淡々とした様子で首を振った。

「いいえ。私ではありません」

 母さんには身内は誰もいなかったし、上條の手配で入院した時点で誰とも交流が途絶えていた。ここを知っているのも上條の人間と里香だけのはずなのに。

「じゃあ誰だよ」
「真彦さまです」

 あり得ない名前を顔色も変えずに言い切った松原の顔を、まじまじと観察する。

「何の冗談?」
「冗談ではありません。真彦さまは美園さんが亡くなってから、月に一度ここに来ることを欠かしたことはありません」

 まさか、と。あり得ない話過ぎて、驚くことすらできない。
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