最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
松原が手を下ろして、目を開けた。視線はそのまま、墓石に向いたまま。
「死の数日前、美園さんに頼まれて、真彦さまを病室にお連れしました。それまで真彦さまが一度も美園さんに会いに来なかったのは、美恵子さまの機嫌を損なって、美園さんに危害が及ぶことを恐れたからだと思います。……ご本人は、私には会いに行く資格がない、とだけ仰ってましたが」
今まで見えていたものと、全く反対の事実ばかり、松原は押し付けてくる。そんなことを今更話されても、俺の中で重なってきた過去はしっかりと根付いてしまっていて、簡単には信じられない。
「……母さんはあの人と何を話したんだ?」
「わかりません。私は席を外しておりましたから。でも、お話を終えた後は二人とも、晴れ晴れとした表情をされてました」
母さんは、父の話を全くしなかった。俺はそれを、父を恨んでいるからだと思っていたけど、本当は違ったのかもしれない。
それから松原は俺の方へ向き直ると、ぐっと表情を引き締めた。
「死の直前、真彦さまをお連れしたのも、私です」
――最後の最後。あいつさえ、来なければ。
「完全に私の独断です。とにかく美園さんに真彦さまを会わせなければ、とそれだけしか考えられなかった。それがあんなことになるなんて」
最後に目を閉じた顔が、いつまでも忘れられない。あの女が言いたいだけ言って帰っていった、その後に残された俺は、もうほとんど意識がない母さんに必死で呼びかけたけど、結局言葉が返ってくることはなかった。ただ最後にうっすらと目を開けて、その表情が本当に悲しそうで。